わん



先日、早朝に散歩をしていたら、犬がひとりで歩いていた。

白いチワワ。

迷い犬ならたいへんだと、しばらく後を追ってみたけれど

犬を飼ったこともなく、どんな風に犬と関わったらいいのか、どうしたらいいのかわからず

なんにもできなかった。

信号をうまく渡りきるのを見送って
はなれたけれど

どうにも心のこりがたえぬまま歩いていたら

二匹の大きな犬を散歩している男性に出会った。

なんだかどうしようもなくて、その男性に

「迷い犬を見たかもしれないのですが」と声をかけてしまった。

大きな犬たちは、わたしに大きな声で吠えて、

早朝の静かな住宅街の中でわたしは小さくなった。

ごめんごめんとあやまりながら、「どこへ行きました?」とたずねてくださった男性に

「あっちへ、白いチワワです」
とこたえると

「ああ、白いチワワね。毎朝、ひとりで歩いてるんだよ。どこの家の子だかもわからないのだけどね」と、男性。

ああ、なんだ、そうなんですね、ならよかったです、ありがとうございます、失礼します

とか言って、

男性と、びっくりさせてしまった二匹の大きな犬に、ありがとうごめんなさいの気持ちでいっぱいになりながら、別れた。

その二匹の犬種を思い出そうにも全く思い出せないくらい、あのときわたしは緊張していて

別れた瞬間、ちょっと泣きそうになった。

ばかか、と思った。

ばかだな。

自分の肝の小ささにおどろくばかりだ。

さて、思い返すと、ひとりで歩いていくあのチワワは、なんだかたのしげにも見えて

きっと毎日、自分で出かけて、自分で帰っているんだな。

早朝だから、あんまり誰にも、出会わずに。

ひそかなる大冒険のようにも思えて、嬉しくも、なった。

想像はいずれにせよ、勝手なものだからな。

そんな心配をする前に、あのチワワの肝の大きさを見習って、

ひとりで歩きなさいね。