手渡しの灯火



「あ、まただ

とおもった。

また、絵美ちゃんに力をかすようなふりをして

わたしがふみだすチャンスをもらっている。

はじめてあの夏
企画ライブに誘ってもらったときに久々に小説を書いて

あれからわたしは、いままで、
文章を書くことと向き合うのをやめていない。

あれからわたしは
脚本を再び書くようになった。

あの日がそのはじまりだった。

あの夜を鮮明におぼえてる。

そして今も

絵美ちゃんにひとり芝居の脚本と演出をたのまれ

力になるつもりが

わたしが一つを乗り切るために
絵美ちゃんにチャンスをもらったんだとおもった。

ひとりじゃのりきれないこと
ふみきれないこと

絵美ちゃんがいて
わたしはのりこえ
ふみきっている。

まただ、とおもった。

生きてきて、
生きていくんだ、

とおもった。

生きていくんだ、

と、おもった。」



と、目の前にいる絵美ちゃんにメールをした。

目の前にいる絵美ちゃんは
メールを読んでうおうお泣いた。

うおうお泣いているのに
わたしは真正面に座って、いた。

そんな時を演出するなら

きっと人は真正面にいられないはずだと

立ち上がってティッシュを取りに行かせたり
コーヒーを飲むふりをしてはすをむかせるだろうけど

わたしは真正面に座って、いた。

そうするときも、あるのだ
と知った。

本番2日前の
ひとり芝居『けつろ』
稽古中のことである。

この日私たちは、この後に及んで
稽古をしなかった。

稽古場を借りながら
コーヒーを飲みながら
なんでもない話をした。

おもえばこの作品は、はじめからそうだった。

なにかをするために
なにもしない時間をたくさんすごした。

そしてそのすべての時間が
ちがういろの、ちがうピースとして
いま作品の肉体になっている。


この作品は
ひとりの女性が部屋で朝を迎えるまでの時間です。

そしてそれは、
わたしが朝劇下北沢に出会い
朝を迎えるまでの時間の色調でもあります。

さらには、関森絵美に出会うまでの。

絶望の先にしかない希望の話です。

深い夜の先にしかない朝の話です。

でもそれはゆるぎなく
自分で手にしたものです。

これからを描ける誰かと
手にしたものです。

虚構に、現実を、
根こそぎ洗い流してもらいます。

これを、誰でもない誰かに
もしかするとあなたにみていただきたいとき

きっとまた
地は天になり
闇は光になるのだとおもいます。

いよいよ明日からです。

たのしみです。

ひとり芝居
『けつろ』
脚本・演出 福永マリカ
出演 関森絵美

APOCシアター
小田急線千歳船橋駅より徒歩3分

1/17(水) 17:30
21(日) 19:00
28(日) 16:00

チケット
1500円