月寒


なかまたちとわかれて
ふたたび街へ。


森の中は誰もいなくて
雪がすいとってくれるから
大声で歌いながら歩いてた。

SPEEDメドレー。

たくさんしゃべりもした。

全開できもちよかったけど

街へ帰ってもその調子が抜けなくて

これはいかん。

行きにバスで通った
心惹かれる地名「月寒」

そこに美味しいコーヒー屋さんがあるというので
コンコンコン。

スペシャルティコーヒーのお店。

入るとお客さんはいなくて
お店のかたが豆袋にスタンプをおしているところだった。

カウンター席だけの
ささやかなお店。

「今日寒いですね」とお店のかた。

「そうなんですね。わたし東京から来たので、わからなくて」とわたし。

雪があるとあったかいみたい。
そうおしえてくれた。

たくさんあるシングルオリジンコーヒーのなかから
「今一番お好きなのはどれですか?」とたずねて
ボリビアのアグロタケシをいただく。

一番好きなものを飲んでみたいよね。

わたしはそういうのが好き。

4分すごすと、出てきたコーヒー。

したざわりがなめらかで
味はとてもバランスが良くて
チェリーのような、カラメルのような

とてもとても複雑で繊細な味が交差しているのに
どの線もはみ出していなくて

そこがとても好きだと思った。

そしてこのコーヒーが好きな
このコーヒーを淹れてくださったお店のかたのことを
ひっそり好きになった。

飲んだ時、その味が言語に変換される感覚を思い出し
コーヒー言語がすこしは身についていることを実感した。

言語を知るって
とても豊かなことだなと
あらためておもった。

そんなことを考えながらただよっていると
ひとり、店内利用のお客さん
ひとり、御歳暮の注文のお客さん
またひとり、お豆を買いに来たお客さん

賑わってきた。

住みよく仕切られた数々の引き出しから
その一つ一つのオーダーに応える道具を
出しては、こなしていく

ひとりでお店に立つそのかたの姿は
とてもきもちがよかった。


そこで、御歳暮のラッピングを待っていたお客さん

「なんだか待ってると焦らせちゃうわよね
わたしだったらそんなの絶対緊張して
変なヘマおかしちゃう、
ちょっとでかけてきますね」

と、そそくさと出て行かれた。

じぶんだったら、という
やさしさって
いちばんやさしいとわたしはおもう。

とてもすきな瞬間で
わたしはその「そそくさ」を
頭の中で何回もリピートした。

おもえば、北海道へ来てから
まともに人と話してなかったし
人と人が話しているのを見ていなかったみたい。

とてもとても複雑で繊細なおもいが交差しているのに
どの線もはみ出していなくて

このお店をとても好きだと思った。