いわ

雨があまり、気にならない。

気圧の変化は気になる。

傘も、気になる。

しかし雨はあまり、気にならない。

そういうわけで、よく傘を忘れる。

意図的にも、忘れる。

今日も意図的か無意識か、傘を忘れて

まあいっかとおもいながら雨の中を歩いていた。

ずんずん歩いていた。

一駅分くらい、ずんずん歩いていた。

ずんずん歩いてしばらく経って、からだが重くなってきて気付いた。

あれ、これ、傘をささないレベルじゃ、ないな。

するとズァーーーーー!と凄まじい音を立てて雨粒が地面を打ち始めた。

「そうだぞ!傘をささないレベルじゃないんだぞ!!」

あんまりに気にしないわたしに、雨が主張し始めた。

ジーンズの色が全面にワントーン暗くなって
もう、もともとこういう色のジーンズだったな、という頃合いになり

ようやっと急ぎ足で駅へ向かった。

駅に着くと、からだじゅうから水が垂れていて

みちゆく人が振り返るようなありさまだった。



このごろ、普段あまり出会わないような人たちを目にすることが多くて

話すリズムやことば、表情、行動、雰囲気のすべてが見慣れないものだから

ああ、なるほど世界は広い、とおもっていた。

その全員にとって、当たり前だけれど
自分が基準で、普通で、

だけどわたしにはまったく、普通じゃない。

そのひとたちの普通を盗むのと同時に

自分の普通の音やことばや行動を
反芻してみることにした。

違和感を感じるのはもちろん難しいけれど

誰かにとっては異様なのかもしれないと
おもっていることはできる。

びしゃびしゃで電車に乗るのは迷惑で
ホームでぼうっとしながら

これはわたしからみても異様だな、とおもった。

まあきっとあすも、天気予報は、見ない。