いものかわむき
おいしそうなじゃがいもと玉ねぎがたくさん我が家にやってきたので
素直に肉じゃがを作ることにした。
実はさほど肉じゃがを作ったことがなく、せっかくだからと土井善晴先生のレシピに倣って作った。
なんだかよくわからないけれど、「肉じゃがってこれだったのか」という味がしている。
美味しい。美味しい。
肉じゃがって、本当に肉とじゃがいもを合わせたもののことだったのか。
そして肉とじゃがいもを合わせるだけのことが、これほど美味しいのか。
白滝と玉ねぎは仲人のプロなのか。
もっと何か、別のものを肉じゃがだと思い続けていた気がする。
多分、水を使わないからこんなに素材同士が生かし合っているんだと思う。
器の中の地味な茶色を見ながら、心の中は華やいでいる。
美味しいな…。
素材が美味しい。次はふかし芋にする。
どうにも秋は調子がくるう。
先日、帰宅して、お疲れ様のビールでも〜と思って飲んでいたら
いつもは顔色が変わらないのに、けっこう赤い。
そして、かゆい。
急に温まっておかしくなったかなあと思い、早めに寝てみたが、起きたら悪化していてまぶたが開かないほどに腫れて、顔や首の皮膚も自分のものじゃないみたいに分厚くなっている。
おお、これは何かのアレルギーか?何の?と思い、朝から皮膚科へ。
人気の皮膚科。感染症対策で、順番待ちは外で電話を待ちながらするように変わっていた。
私は特に先生を指名しなかったから、院内で待ってすぐに呼ばれた。
「えっと、この間もいらっしゃったのよね」と先生に言われる。
「?…えっと、来てないですね」
「え?10月13日、まぶたの炎症って…」
「あ、3年前じゃないですか?」
「あら、ほんとだ、ちょうど2日前に今回と同じ症状だったから!!」
そう、3年前の今頃もまぶたがひどく腫れて、その皮膚科に来たのだった。
「同じ時期だったから、おとといくらいに来たのかと思っちゃった」と先生に言われ、
私のSF脳は
「もしや本当にそうなのでは?
私が記憶しているこの3年間は作り物で、実はこの間は2日しかなかったのでは?」
などと一瞬考える。
ふと少し前に、この2020年は、時は流れているけれど、3月の末に断絶されてもいる気がするなあとぼんやり考えていた。
流れている時間と、断絶されている時間があって、
それは別にパラレルワールドではないけれど、
物事を捉える視点のような話かもしれない。
急にシャッターが降りるように、裁断機が落ちるように断絶された時間が、
もし何かの拍子に始まった時に、あの3月との接地面がきちんとくっつくように、
あの3月の鮮度をきちんと保っておいたほうがいいかもしれないなあとぼんやり考えていた。
ある視点では。
何かが元に戻って欲しいとか、何もなかったことになって欲しいと思っているわけでもない。
そう考えたのが単なるイメージなのか、もう少し考えたらちゃんと理由があるのかもよくわからないけど。
そんなことを、皮膚科で自分の皮膚にクリームを塗られながら思い出していた。
アレルギー反応が出ると、自分の皮膚がそうじゃないみたいに感じるのが不思議。
季節の変わり目はどうもこうなる。
皮膚とその内側が、季節の間で断絶されてるんじゃないかって気持ちになる。
皮膚だけ冬に行こうとしている、みたいな。
ところで、病院って悪くないですね。
専門家の気持ちのいい話を気持ちよく聴く時間はどこにいっても気持ちいい。
あ、SFの世界に入っていて、アレルギー検査はしそびれました。