謎の総意
photo: Daisuke Hashihara
その髪型似合いますね!とやたらに言われるようになった。
33年間生きてきて、ベリーショートからロングまでさまざまな髪型をしてきたが、こんなにも誰も彼もが髪型にコメントしてくるのは、初めてのシーズンである。
自分でもしっくりきてるんですよね、ということより、人の「なんかいい」という感覚はこんなにも一致するものなのかということに驚く。
昔スープカレー屋で働いていた時、なぜ今日はやたらにシーフードスープカレーが出るのか、今日はみんなキャベツとベーコンのスープカレーを食べるなあ、などと思っていたが、その感覚に非常に似ている。
人の「今、なんか、それ」の感覚は、なぜかハーモニーするらしい。なぜかはわからない。
私自身は、そのように多くの人から「それだよそれ!」と言われたことにより、「おおこれなのか」と、長年の髪型迷子から抜け出しつつある。これは、人生という道の途中、思わぬ喜びと安堵である。
髪型に迷いすぎて、髪型による印象の変化を恨み、坊主にしたい時代すらあったのだ。坊主にせずに、着地する点を見つけられて、本当によかった。
何か自分の「これなのか」を見つけることは、その点においてのみならず非常に便利なものであり、なんとなくその一点が決まると、他のことまで波及して定まり始める。
最近は髪型が決まったおかげで、なんとなくの外見のスタイルが決まり始め、それにより、ものすごく広い意味での自分のスタンスみたいなものまで決まりつつある。
33年うんうん生きてきて、己を定めるのは髪型なのかよ、と思いもするが、語尾の一つを変えるだけで、人の関係性が変わることもあるもので、人とはなんと不確かなものなのでしょうか。
さて、そんなわけで、舞台『パンセク♡』稽古が始まりました。
タイトルにもあるパンセク、パンセクシャルをはじめとするさまざまなセクシャリティの人々が登場する物語です。同時に、セクシャリティ以外の面でもさまざまなかたちの人間たちです。あたりまえか。
このひとたちもまた、自分の輪郭を探している途中なのかもしれなくて、お互いの関わりの中で、知らない言葉や、知らないやさしさの形や、自分は苦手なものを好きな人と出会い、輪郭の手がかりを見つけていく、そんな感じがしています。
そして大変にコメディです。
私、稽古をしながらコメディと切実さのバランスに非常に戸惑っていたのですが、なんとなくそんな予感がしてさくらももこのエッセイを読んでいたら、チューニングがあって参りました。
これか、これでした。
さくらももこが好きな人は楽しいはずの、切実でばかばかしくラブリーな人たちの物語です。
みんなちがいすぎて、一緒に生きていくのはびっくりしちゃうくらい大変なのがこの世ですけれど、これをみた帰り道には、その大変さもかわいく、ちがいすぎることがちょっと嬉しく助かるなぁと思える気がします。
頑張りますね。
心でハイタッチできる公演目指して、えへへ。
7/9〜下北沢小劇場B1にて。
詳細は公式ホームページをご覧ください。