生の実在

↑米を買ったのにナンを食べる。


確定申告をしていると、領収書を見ながら、昨年の1年間がまざまざと蘇る。

昨年は、さすがに我ながらよくやったと思う。

人は、深い苦しみの中で、必要に迫られたような買い物をしながらも、くだらないコアラのマーチなんかを買ったりするのだなと思った。

必要な選択に迫られているときには、不要なものをこそ買うようだ。


あんたになんかかまってる暇ないんだよという時期に、我が家にネズミが出没したりもした。

ネズミ退治のグッズのレシートばかりが出てくるのだ。

ある日家に帰ってきたら、棚の上のものが落ちていて、侵入者でもあったのかと思ったのだが、翌日、家にいるときにがたんと音がして、ふと見ると奴がいたのだった。

あー!と声を出したら、向こうもびっくりしたようで、走って逃げ回り、床に置いてあったウクレレにぶつかり、ちゃらーんと音色を奏でていた。ちゃらーんじゃないんだよ。

家の中に、招き入れたつもりのない毛の生き物がいることに驚くばかりで、もしもそいつが賢くて会話ができようものなら、「あんたにはちゃんといい寝床とおいしいものをあげてここに住まわせてやるから、他の仲間には一切この辺りに立ち入らないように言い聞かせてくれ」と取引したいくらいだった。

しかし話が通じるはずはなく、それでも私は平和を祈る人間なので「あんたの家じゃないんだよ!」と毎日叫んでは見たりした。

戦いの日々はしばらく続いた。

法外に家賃が安い家に住んでいるわけではないのだ。ただ、ものすごく隙の多い、おおらかなつくりの家ではあったようだ。

眠れぬ夜を過ごしながらも、山田太一さんが「ネズミとの共同生活というか闘争生活をした人は、その分生の実在を知っているのだなとバカなことを思った」(『夕暮れの時間に』河出書房新社)と言っていたのだけをバカな心の支えに過ごしていた。


昨年は、生きている実感が大きく揺らいだ一年であった。

そして、そのことによって、私の中でこれだけ大きく変化するのだから、他人の生きている実感、リアリティというものはきっと大きく異なるのだろう、想像もしえないものなのだろうと強く思うようになった。

人には人のリアリティがある。

そんな人たちが一緒に生きているのだから、この世は大変なことである。

それがここ最近よくよく思っていることである。


朝劇下北沢のチケットが発売した。

色々な角度からお話しすべきことがあるのだけど、上演する物語は、「人には人のリアリティがある」という最近の実感に基づくものである。

久々に複数の人が登場する芝居を書いて、書ききれない視点は無限にあれど、それでも5人分のリアリティは描けるのだな、それはありがたいことだなと思った。

見に来てくださる人のリアリティに触れられるかはわからないけれど、わかりえないことの諦めとおおらかさも含めて、見に来てくださる人それぞれの生きていることを、ほんの少しでもねぎらえるような作品になることを切に祈っている。


FELLOWS CREATIVE LIVE Vol.2 
朝劇下北沢 
『腹が減っても戦はさせぬ』 
2025年3月22日(土)-23日(日) 

脚本・演出 福永マリカ 

出演 
村尾俊明 
宮原奨伍 
渡辺コウジ 
関森絵美 
福永マリカ 


声の出演 
山岡竜弘(両日14時公演) 
寺田有希(両日18時公演) 


あらすじ 
とある世界の渋谷区恵比寿にあるビストロ。店長のシオ、料理長のムツ、新人調理スタッフのコウ、ホールリーダーのセキ。彼らには、この店で料理を提供する仕事のほかにもうひとつ、秘密の重要な任務があった。美味しいお料理とお飲み物とご一緒にゆったりお楽しみいただく、SFお仕事ストーリー。 


タイムテーブル 
各日程 
14:00 
18:00 
・開場は開演の30分前です 
・上演時間は40分を予定しています 

〜終演後はお料理を召し上がりながら、キャストとごゆっくりご歓談ください〜 


チケット 
3000円(別途ワンドリンク、ワンフードオーダー制/ドリンク500円、フード500円) 
※事前予約制/当日現金精算 
※全席自由席 
※上演中はご注文出来ません 
※追加注文可能 


ご予約はこちら
https://www.fellow-s.co.jp/fcl/


会場 
FELLOWS Bistro&Bar 
東京都渋谷区恵比寿西1-9-1第二ともえビル3F 
JR「恵比寿駅」西口徒歩3分 
東京メトロ「恵比寿駅」徒歩2分 


お問合せ 
fff-s@fellow-s.co.jp [FELLOWS] 
shimokita.asageki@gmail.com [朝劇下北沢] 


制作・音響:山本真梨子、千束美紀 


主催 
株式会社フェローズ