2025年顎問題

 以前から顎関節症ではあったのだが、歯科医でつくったマウスピースとともにだましだまし生活できる程度ではあった。

それが33歳になった途端、口が開かなくなり、おにぎりが食べられなくなってしまった。

私の昼食はいつも梅おにぎりと決まっているのに、これでは生活ができない。非常に困った事態である。

なんとなく治るはずだと己の顎を信頼して待っていたのだが、まるでだめ。
ついに、整骨院に行くことになった。

顎の症状について相談すると、それはもちろん顎の症状ではあるのだが、根本的には全身の姿勢から繰り広げられる壮大なストーリーが元になっているらしい。

そうだろうそれが人体ひいては宇宙というものだもんなあとは思いながらも、今すぐおにぎりが食べられるようになりたい即物的な私は、気が遠くなる。

しかし、全身の施術を受けていると、たしかに触れてもいない顎の筋肉がじわじわしてくるのを実感し、とにかく今は先生に身を委ねるほかないと思う。

猫背になっていることから筋肉のバランスが崩れて顎にも影響が出ているとのことで、正しい姿勢を教えてもらう。

「その、肩が後ろに回っていて、二重顎になるくらいが正しい姿勢ですね」
と言われる。

「すみません、これ、正しい姿勢になっていった暁には、この二重顎の肉はどこにいくんですか?」
とたずねると

「流れるようになったリンパに沿ってどこかへ行くかもしれないし、どこへもいかないかもしれません」
と言われる。

突然、夢と希望の世界へつながる扉を探して旅している途中、仲間を人質に取られ、行く手を阻まれてしまったおとぎ話の主人公のような気持ちになる。

正しさとは、夢と希望とは、一体なんなのだろうか。

しかしながら一夜明け、口は確実に開くようになったので、おにぎりを食べる生活はできそうである。

だがこれもまた、二重顎にしない限り、おにぎりまでもたちまち夢と化すのである。


写真はアーチェリーを自分なりにやってみる私。
こういう時だけはそれっぽく振舞おうと姿勢が良い。