でん

 


かばんからボールペンが突き出ていて、知らぬうちに臀部が落書きだらけになっていた。

悲しさなのかショックなのか可笑しさなのかはわからないが、一人で抱えられぬ気持ちになり、裏通りで写真を撮影しようと、臀部にスマートフォンを向けた。

すると、曲がり角からマダムが登場。

臀部にスマートフォンを向けた私をしっかりと見た様子だった。

私は、恥ずかしさと、そもそも一人では抱えられぬ気持ちであったために

なんと弁明しよう、別にただの臀部を撮りたかったわけではないんです、気づいたらボールペンが突き出てて…などと一瞬にして考えながらマダムの目を見つめ続けたが

そんなことを言っても全く意味がわからない上に、別に面白いわけでもないので、

硬直した視線はそのまま、口元だけヘラヘラと笑うにとどまった。

するとマダムも、うふふと声に出して笑い返してくれた。

マダムは、どういう理由で臀部の写真を撮っている女だと思ったのだろうか。

どうとも思わないよな。

どうとも思わないだろうことに対する弁明を考えて一日が終わることが多々あるし

自分の臀部拭いに臀部拭いを重ねて日々は過ぎ去ることも常であり

夏休みはやっぱり短いと大江千里は歌っている。




お茶濁しの、夏の冷やしおでん。