トリップ

 
パッタイ。遠い地の味を、我が家のテーブルで。


九月に入り、舞台『桜文』の稽古も稽古場から会場のPARCO劇場に移りました。

はじめてのPARCO劇場

どんなに広く感じるだろうと思っていたのですが、舞台に立ってみると客席が全部満遍なく近い感じがして、包まれている心地もして

急に親しい気持ちになりました。

客席を見ると、心強くなるのですね。

おかげで、そこを居場所に、住めば都にすることができます。



最近は、劇場に入る前の数日がちょっとたのしみで
それは、どんな都にするのかを企む時間になるからなんですね。

少し前までは、できるだけ軽やかに退散できるようにと、楽屋の鏡前にほとんど物を置いておらず
「マリカ、居る?」とよく言われていたのですが

最近は、できるだけ腰を落ち着けていられるように、安心する物をたくさん置くようになりました。

今回は一か月近くお世話になる場所なので、どれだけちいさなわたしの家にできるか、にやにやしています。

こういうときいつも思い出すのは、大好きな絵本『ばばばあちゃんのいそがしいよる』で

はいはいまたその話ですか、とお思いのかたもおりましょうが

最終的には家財が全部、楽屋にお引っ越ししてるくらいのきもちが理想です。

きもちの、理想ね。

そうもいかないから、好きなお茶とか、ちいちゃいコジコジとか、ちいちゃな安心の分身をたくさん連れてきました。

居場所なんていくらあっても困らないのだから、ちゃんと腰を据えて1か月励もうとおもいます。



こんなわたしの楽屋事情を聞いたとて、ご観劇の参考にはまったくならないでしょう。すみません。

でもねえ、居場所なんていくらあっても困らないってのは本当にそうで

私にとっては本も、そのひとつです。

ぜんぜん読書家なんかじゃないのですが
しんどいなぁってとき、特に人に頼るのも自分の体重で相手を押し潰しそうでしんどいなぁってときは、古本屋に行ってとにかく本を買います。

すぐに読まなくても、その本が家の片隅とか、鞄の中にあるだけで、あの中には別の時間が流れてると思えて安心するし

開けば、濃い酸素のある場所みたいに広くてよく息ができるし

ほんと助かる。

そう、そう、『桜文』は紛れもなく、そんなふうに本に救われた人間の、その先の物語でしたそうでした。

ここがとってもすき。

誰かの救いになりたいみたいなことは思えないけど、本が私にとってそうであるように、

劇場や演劇も、息のできる場所にはなりえるかなぁと思います。

空間も虚構も、どれだけ寄り掛かられても大丈夫な器があるはずです。

存分に寄り掛かって、いい感じに力が抜けたら、きっとむきむき歩ける足が生えて、劇場を出て自分の時間に帰れるんじゃないかしら。

そんなふうになったらいいなあと、心から準備して、お待ちしておりますね。



パルコ・プロデュース2022
『桜文』
2022年9月5日(月)〜25日(日) 東京・渋谷 PARCO劇場
10月1日(土)〜2日(日) 大阪 COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
10月5日(水) 名古屋文理大学文化フォーラム
10月8日(土)長野 サントミューゼ大ホール