正直に働く



「バイト」をするように「仕事」をしよう、と2020年から思うようになりました。

バイトとは?仕事とは?
その定義の正しさについてはさておき、

役者の「仕事」をしながら生活を補うために働くことを「バイト」と
何か頑なに呼び続けていました。

「バイト」が主たる収入であっても、です。

「自分は本当は、役者として生きていきたいのだ!」
という意志を、その呼び方に必死で込めてきたように思います。


そういった自分の、アルバイト・仕事観、生きることと働くことについては
一度、自主出版した雑誌「マリカ」で「福永マリカのアルバイト歴」として特集したことがあります。

買ってくださった方は、ありがとうございました。

その特集で、「アルバイト、もうしない」という章を書きました。

呼び方はどうあれ、そこで対価をもらい働いていることには変わりなく
私が自分の中でどのような比率の生活費を稼ぎ、どのような比率の精神と体力をさいている場所であれ
その場所には、そこを生活の基盤として生きている人間がいるのだ
ということを、とても大きく感じるようになり

また、自分自身も、
役者の仕事に対してそのように全身全霊をもって取り組めるようになりたい
と思っていたのが大きな所以でした。

そのことについては、一度ここでも書いたことがあります。

この記事が、2018年です。


その後、ぎりぎりすぎる暮らしが再来して
軽々と前言を撤回して、アルバイトを再開しました。

お金に余裕がないと、人はすさみます。
ご飯を食べないと不健康になります。

自分が欲しいものを買えないことなんかより
人にあげたいものを買えないことのほうが、一番悲しくなります。

好きな歌手のCDが買えなくて、無料の音楽を探していることに落ち込みます。

ともあれ、自分の心が豊かでいられるように暮らすようになったのは、そのあたりからです。


そして、やっと戻ってきました。
2020年。

「アルバイト」をするように「仕事」をしたい、と思うようになりました。

なんてこと!と思うでしょう。
ちょっと真剣に説明してみます。

いつからか、私はきっと
「仕事」を「仕事」としてやるために
何か不要な力を入れすぎていたのだと思います。

立派でなきゃならないと思っていました。

自分の心身を削ってでも、役者の仕事をやっていくことで何か見えることがあるだろうと漠然と考えていました。

そう思って、たくさん無理をしたこともあるし、どこからか自分自身の命のようなものと「仕事」を切り離して考えるようになりました。

それは、とても危険な考え方でした。

自分の心身を削って得られるものなんてありません。

そんなことは、誰のためにもなりません。

大間違いです。

「永く続けていくための暮らしをしよう」と目標に掲げ、壁にその文字を貼って
毎日眺めて過ごすようになってから2年の時が経ち

今見えているのが、
何をするにも自分自身の命から切り離さない生き方です。

仕事と休日、オンとオフの切り替えをすることと
仕事を自分自身の命から切り離して考えることを、混同してはいけません。

自分の命を持ちうる限り永く続けていくために
オンとオフを切り替える必要があることをよく知りました。

そうしたとき、アルバイトをしている私というのは
なかなかにちょうどいい感覚を持っているような気がしました。

自分が人からどう見られるかに意識を取られず
しっかり目の前にある仕事をやる。

何者でもなく、人として
まっとうにはたらく。

ただそれだけです。

当然のことですが、フリーランスとして、自分というお店をどう人に見てもらうか考えすぎて
いらないショーケースのようなものが何重にもなっていたのかもしれません。

時には必要なこともありますが、身動きが取りにくくなったり、傲慢になったら本末転倒です。

人として、まっとうに。

なんだかもう、今はそれだけです。


働き方に限ったことではありません。

今日も、いいなと思う本と、いいなと思うコーヒーを買ってきました。

鉛筆一つにしたって、いいものを選んだなって思えるように生きていきたい。

人参一本にしたって、いいなあと思える人参を買いたいですし
いいなあと思うものを買ったら、人参だったというのがいい。

それで作れるものを作って、生きていけたらいい。

失敗した!という買い物も、別にいい。
失敗のないことより、失敗を重ねて、ちゃんと鼻が効く人になりたい。

心を込めてできることだけやりたいし
心無いことはしたくない。

それが仕事だとかバイトだとかその呼び名は関係なく
役者としてだとか、袋詰めの作業員としてだとかも関係なく

自分がいいなあと思う場所を選び、自分をいいなあと思える状態で身を置いていたいと思っています。

そのために、もっと多くのことを知っていきたい。

好きなことをして生きていくのは甘くないかもしれませんが
それは経済的なこと以上に
自分が何かを好きだと正直に感じる心を殺さずに、濁さずに生きていくことの甘くなさのことだと感じています。

それでも、好きだ、いいなあ、と思うものを選んで生きていきたい。

それで、そういう私のささやかな選択の先に
私が自分を永く続けていくための暮らしの先に
この地球が永く続いていくための方法があったらいいなと、心から思っています。


表向きに、役者の仕事の仕方が変わるかどうかはわかりません。

でも、なんとなく
私というお店があったとしたら、どういうお店にしたいのか
ショーケースでがんじがらめにするのではなく
どういう扉を開いていたいのか
ちょっと伝えておきたくて書きました。

来年で、初めて役者としてお金をもらってから20年です。

きっとここまで続けて来れたのは、何かのご縁だと思いますし
きっと私がちょっとでも誰かの役に立つのに、この仕事が向いているのだと思います。

舞台という場所も、とても好きです。

これからも末長く続けて行きます。

観てくださったら、それはそれは嬉しいです。


さて、2021年
7月に、大変久々に舞台に立つことになりました。

☆鵺的第14回公演
サンモールスタジオ提携公演
『夜会行』
作 高木登(鵺的)
演出 寺十吾(tsumazuki no ishi)
2021年7月1日(木)〜7日(水)
新宿・サンモールスタジオ

https://ameblo.jp/nueteki-info/

今まで以上に、正直に舞台に立ちたいと思っています。

もしもよかったら、観にいらしてください。


雑誌「マリカ」
創刊号だけしかだせていないので、次号をださないといけませんね。