古本屋と、ハムチーズ、ビーグル犬

古本屋で、100円玉と、古山高麗雄の『風景のない旅』を交換してもらう。

私は、100円玉を渡して、本をもらったほうの人。

「100円ちょうだいします」
「ありがとうございます」

うれしくて、とってもおおきなものに交換してもらったなあと感じる。

はじめて行った古本屋さんだったけど、お店も人も、明るくて清潔だった。



本を持って、すぐそばのコーヒー屋さんへ。

コーヒーとハムチーズのホットサンドを頼んで、外の席に腰掛け、本を開く。

焼きあがったハムチーズのホットサンドを、お店の人が運んで来てくれる。

と、隣の席の紳士二人、の、足元にいたビーグル犬がホットサンドを追った視線が、ぴたりと私のところで止まる。

ビーグル犬と、目が合う。

「それはちがうよ。おねえさんのだよ」と、紳士。

その声に、紳士を見る、ビーグル犬。

えへへ…と、すこし小さくなりながら、私はホットサンドを一口。

するとまた、ビーグル犬、のびるチーズを見て、口を開けている。

ああ、ごめんね…と思いながら、チーズを口にしまってゆく。

焼きたてのパンのカリカリとした音もあんまりたてないように、そおっと、そおっと食べる。

二口、三口、と食べたところで、視線を感じると、

ビーグル犬、またこちらを見ている。

「だからちがうよ、それはおねえさんの」と、紳士。

でもたしかに、このハムチーズのホットサンドは、ひとりで食べるにはもったいないくらいおいしい。

チーズはたっぷりだし、こしょうがけっこう、効いている。

ビーグル犬には、かわいそうだけど、私はひとりじゃなくてよかったよ。

ありがとう。

ゆっくり本を読もうと思っていたところで、予定が変更になって、ハムチーズを食べてすぐに立ち去ることに。

紳士お二人とビーグル犬と、さようなら〜と声をかわして、席を立つ。



9月が終わる。

英語は勉強すれば喋れても、犬の言葉は喋れないんだなあ。